the ruins of a castle


 熱風の砂漠に爆音が響く。
 金色の髪が風に舞う。
「デヴァステイト!!」
 少女は右手にした杖を振り紋章魔法を繰り出す。数匹の魔物を巻き込んだ爆音は更に続いた。その砂煙の中から、一匹の魔物が飛び出す。
 瞳を閉じ、新たな魔法の詠唱をしていた少女に襲い掛かった。  タッと小気味良い音とともに、少女の後ろから長身の男が飛び出すと、手にした長刀で魔物を払った。返す刃でそれを切り裂く。
 長い金髪をリボンでまとめた男は、砂煙を茶の瞳で見据えるとこう叫んだ。
「ロディ!後は任せた!」
「わかった。」
 答えたのは、深藍の髪と紅い瞳を持つ少年。振上げた右手の ARMを魔物に向けた。『ソリッドストーム』心を伸ばす事と同じ感覚で幾つもの弾が魔物に降り注ぐ。その場の魔物は全て爆音に包まれた。

「これで全部片付いたらしいね。ザック」  男の懐からスルリと出てきたネズミに似た生物は、彼の肩口に乗るとそう言う。ギロリと睨んでザックは答えた。
「…お前は何にもしてねーじゃないか。ハンペン。」
「僕は頭脳労働者だからね。チェックが仕事さ。」
「何言ってやがる。このくそあせれいが!」

「そういう喋り方だと、お里が知れるよ、ザック。」  ● ×△…!いつもの口喧嘩が始まる前に、少女が話し掛ける。ショートカットの金髪を手で撫で付けながら近くに寄った。
「先程をありがとうございました。思った以上に数がありましたね。」
「ああ、噂通りだね。」
 少年もそう答える。「セシリアもザックも怪我なかった?」 優しい笑みを浮べる少年に、セシリアは微笑んだ。
「ロディにも怪我をありませんか?」

 三人を知る者達は彼らの事をこう形容する『ファルガイアの英雄』…と。 こんな肩書きを持つ渡り鳥は、ファルガイア広しといえども彼等しかいないだろう。



 彼等が、此処を訪れたのは訳があった。
 魔族を退けファルガイアの平和を取戻した後、普通の渡り鳥として遺跡発掘をし、村の手伝いをし、飼い猫を探すという仕事に 日々従事していた彼等は、そこを訪れたカラミティ・ジェーンとその執事によって一つの噂を聞く事になった。
『今まで見たこともないよう魔物が出現している。そして、それに同調するように再び魔物の数を増している。』
聞きづてならないその噂は、世界を行き交う商人達によってもたらされ、ファルガイアの何処というわけではなく『砂漠』に出現する。というものだった。

「お金にならないものには近寄らないわ。」  そう言って立ち去ろうとしたジェーンは、クルリと向きを変え、ロディ達にウインクしてこう言った。
「でも、貴方達は向かうでしょ?人助けの称号はお譲りするわ。」



「でも、気になったのでわざわざ足を運んでくださったのですね。」
「そうだな。」
 アームについた細かい砂を払いながら、ロディは魔物の残骸に目を向ける。近くで、ザックの肩に乗ったハンペンが魔物を観察していた。
「こいつらは、元々ファルガイアにいる種類のものだけど…何か 妙だな。」ハンペンは小さな腕を顎に伸ばし考え込むように首を傾げた。
「何が変なんだ?。」
相棒の呟きにザックは問い掛ける。
「こことここの模様は、本来砂漠に生息している魔獣とは違うものだけど、そんなに急に変化するってもんじゃないし…。でもそれ以外は古来からの在来種みたいだし、モンスター図鑑で確認してみてよザック。」
「お前の手が小さくてどこさしてるのかさっぱりわからん。」
「役立たず!!ザックの脳味噌も筋肉だろう!!」
「何ィ!!」
「まぁまぁ、此処だろう?確かに亜種みたいだけど…。」 横で魔物の残骸をひっくり返して、観察していたロディもそう言う。
「アナライズも上手くいかないようですし、一体どういう事でしょう?」
「わからないな。種類が増えたって喜ぶ人はいるみたいだけど。」
 会話を交わす二人と一匹の横で、『脳が筋肉』のザックはすっかり飽きて辺りの散策に目的を切り替えた。(勿論、自分だけである。)
荒廃したファルガイアの象徴である砂漠は、どこまでも広がって見える。
 いや、(どこまでも)ではなかった。少し離れた場所に岩の塊が埋もれているのが見える。変わらない風景の中で唯一つ違和感。
 好奇心が導くまま、ザックはそこへ歩を進めた。自分の身長よりは少し低いだろうか、砂に埋もれた岩はまだ根深く砂に埋もれているように見えた。
短剣を取り出し、岩を叩く。ガツンという音に、ザックはまた微かな違和感を感じた。遺跡の中の壁のような…。
「中に空洞がある、そんな音だな。…ひょっとして遺跡の外壁なのか?」
 呟いて、今度は岩の埋もれている部分に向かい剣をスコップ代わりに掘る。
 遺跡発掘専門の渡り鳥として過ごしてきた感が、ここに何かあるとザックに伝えていた。70cm程掘り進んだ時、地表に晒された岩の表面に、エルウの遺跡に良く見られる紅い宝飾が張り付いているのを見つけた。
『ビンゴだぜ!』
 ザックの手が、その石に触れる。一瞬の間の後、その石は鈍く光った。そして、砂漠に爆音が響く。  驚いて、振り向いた三人(?)の目に映ったのは、砂煙を舞い上げている砂漠の姿だった。ザックの姿は無い。
「ザック!?」
慌てて駆け寄ったが、飛び散った細かな岩塊が散乱するばかりでやはりその姿はないように見えた。
「ザック!!」顔色を変えて、辺りを見回したロディの直ぐ足元からその声はした。
「よお…。」砂漠にぽっかりと開いた穴にこれまた、ずっぽりとはまった男の姿。
大きく目を見開いてから、ロディは片手を差し出した。そして、それを掴んだザックの身体を軽々と引き上げる。
「ザック…どうしたの?怪我は無い?」
「ああ、触った途端いきなりこれでさ…。」
「トラップだよ…。」呆れ顔のハンペンが、セシリアの  肩で腕ぐむをしながら頷いている。服の汚れ払っていたザックが睨んだ。
「まったく、トラップと見れば掛かりに行く体質なんだから…。」


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